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【5月23日(日)レース当日:ラン編】
 さて、と。最後のエイドでもらったバイクボトルのひとつをウエスト・ベルトに挿 し、いよいよ最後の種目だ。悔いのないように、残る力を全部出しきって、ゴールで は光粒になって昇華してしまうような、あの感激をまた味わうのだ!あの感覚は、麻 薬だ。

トランジション会場では、大音量でノリのいい音楽が鳴り響き、実況中継のウィット さんと長崎 TV(?)の女性アナウンサーが、これから鬼岳2周回のマラソン・コース に出て行く選手の名前を、一人一人大声で叫んでくれている。コースに飛び出すとき だけでも、力強くカッコよく出て行けるというもんだ。「440ば〜ん、千葉からきた どす鯉さんで〜す!いってら・・・あッ、そのまえに用足しです!・・・・。あ、 440番どす鯉さん、いま出てきました。スッキリしましたか?それでは、頑張って 行ってらっしゃ〜い!」がーん、トイレに駆け込んで出てくるところまで実況中継さ れてしまった!
中央公園を出て、最初は公園裏まで細い道を片道1.2kmほどを往復だ。軽くパスさ れた小柄な女性が、やけに軽々と走っているように見える。真平なコースなのに、え らく脚が重くてストライドが全く伸びない。このままあと40kmも走ると一体どれだけ 時間がかかるのだろう?と思うと、頭がクラクラしてきた。アイアンマン・ジャパン のランコースは、1kmごとにキッチリと距離表示がある。ASもほぼキッチリと1.5km毎 に設置されているため、ウエストベルトとそこにつけたボトルを、中央公園出口あた りの民家で応援してくださったボクちゃんに預けたら、途端に体が軽く感じられた。 しかし、足取りに全く変化はないのであった! 宮古島のランでは、往路で向かい 風と緩い登りで苦しんだが、復路はその反対だと思うとまだ頑張れた。今回はどうだ ろう。

公道に出て、バイクフィニッシュを目指す選手たちとすれ違う。みんな「いいなぁ、 もうランかよ!」という、羨望にも似た眼差しでこちらを見ていくのが分かる(本当 はサングラスしてるから、ようワカランのだけれど)。

空港の側道の入り口はちょっとした登りになっている。普段なら鼻歌交じりで登れる 坂だが、いまは歯を食いしばり、腕をしっかり振りながらでないとマトモに走れな い。3kmのエイド付近で、山倉海苔ピー選手(彼女が「ノリ袋」なるグッズを作成し て以来、どす鯉は彼女のことをこう呼ぶのだ。ちなみに彼女のダンナの山倉氏とは、大 学時代に競泳選手として何度もマミエている関係なのである)とすれ違う。距離から 換算して20-25分位の差だろうか。彼女の調子がそれほど悪くないとすれば、どす鯉 の方はここまではなかなかの調子といえるだろう。しかし実際は、土俵で稽古するよ うな摺り足走法のため、今にもコケてしまいそうだ。

しかし、空港の側道を折り返してくると、突然脚が前に出るようになってきた。一 瞬、ここは下りか?とも思ったがそうでもない。調子に乗りすぎてオーバーペースに ならないように、しかしここでエンドルフィン出まくりの快調ペースに一気にのせた いという葛藤を抱きつつ、追い風に乗って走った。はっきりとストライドが伸びたこ とがわかり、だんだん心地よく感じられてきた。

鬼岳を反時計回りに2周回するコースは、町中を通ったり、鬼岳の山並みを左に、海 に浮かぶ五島の島々を右に臨む緩いアップダウンの道を走る。町中では、応援に頷く だけでしか応えられず、海沿いの道では鬼岳や島々に視線をやって、長く短調なラン の苦しさを紛らわせた。

12km地点のASで、お腹がガスタンク化しているように感じられたため、仕方なくトイ レに!ガス爆発を未然に防げたが、およそ10人ほどに抜かれるという代償を払うこと になった。まだあと30kmもあるのか。時計を持っていなかったため、ASのボランティ アの方に時間を聞くと「3時35分!」とのこと。ここまでのペースは分からないが、 この先キロ6分で行けば、午後6:30、11時間半くらいでゴールできそうだ。そう思う と、もうペースは落とせない、というプレッシャーがかかってきた。宮古島では、 もっと脚が重く4時間20分もかかってしまったので油断は禁物だ。

鎧瀬か上崎山の町中にはちょっとした登りがあって、これがまた脚にこたえる。福江 の市内まであと4-5kmというあたりでも、うねるようなアップダウンがあって、どれ くらい力が残っているのか試されているようだ。あと18km走ってまたここに戻って来 るときは、もう後先考えず「あと5km、とにかくゴール、早くゴール、ゴールゴー ル!」と何度も頭の中で繰り返していることだろう。

福江の町の入り口の交差点で、既に2周回を終わって残すところあと2kmの選手たちは 直進し、18kmの2周回目を残す我々は左折して鬼岳の裏側に向かうことになる。この 交差点を過ぎて武家屋敷通りに繋がる細い路地に入ったところで、「どす鯉さん! (カシャッ!)すぐわかったよ、そのジャージ!(カシャッ!)もうバッチシだ よ!!」と大きな声をかけられた。なんと、先日お会いした岩佐さんではないですか。 いやぁ、声をかけられて振り向きざまの写真を撮られちゃったみたいですなぁ。見返 り美人という浮世絵がありますが、おそらく「振り向きイケメン」とかいうタイトル の写真が撮れているんだろうなぁ!楽しみだなぁ!いやぁ、まいったなぁ。「あっ、 岩佐さん!ドモ、ドモ、アリガトさんです!!」と笑顔で手を振って応えた。 こういう感じで「レース中であることをすっかり忘れてしまう瞬間」があると、妙に リフレッシュされることがあって、このときがまさにそうでした。なんか元気が出て きたぞ!

22km地点で沿道の応援者に時間を聞くと、4時30分過ぎとのこと。やや?キロ6分ペー スでは18:30(11 時間30分)がギリギリだ!脚が消耗しきらない程度にペースアップ を心がけなくては。この辺からラン序盤のコースから周回コースに入る合流地点まで は、川沿いを僅かだが登る感じになる。ここでペースを落としたら、その後の10kmで 挽回するのは無理だろう。ここからが勝負だ。大きくペースアップは出来ないが、幸 い脚はまだ動きそうだ。
ちょっとした土手を登るようなところでも大きくスピードダウンしないように気をつ けた。ランに入ったばかりの選手と合流し、26-27km地点を通過。この辺に来ると、 元気のいい選手に抜かれることはまずない。せいぜい同じくらいのスピードの選手と ASを境に前後し、「勝てそう?いや、このままでは負けちゃうかも!」で一喜一憂す るのみである。1.5kmのASのたびに、同じ顔ぶれで飲み食いを繰り返す。

長い間、こうして前後して走っていると、さっきまで「ゴール前には絶対に決着をつ けてやる!」と思っていたのが、「遅れるなよ、お互い、最後まで頑張ろうぜ!」と なり、いよいよゴールが近づくと「最後まで、最後の一適の力を振り絞るまで一緒に 行くぞ!」と変わってしまうから不思議だ。トライアスロンは競技時間が長いことも あって、そんなふうに選手同士の気持ちを融解し、変えてしまう時間的余裕があるの だろうと思う。

今回は、真っ赤なランニングトップを着た、名古屋をアジトにしている「石田軍団」 のオトーサンがライバルとなった。25kmあたりで追いつかれたのだが、ペースがそれ ほど変わらなかったために「このオッサンには絶対に抜かれたくない!抜き返してや る」という衝動を覚えてしまった。その後の10kmほどは、いい緊張感を維持しながら 互いに前に出たり後ろに下がったりを繰り返した。デッドヒートのように聞こえるか もしれないが、キロ6分ペースの与太亀ランニングである。 赤いウエアに、頭頂部が やや薄くなったその石田軍団のオトーサンは、右足を少し引きずり、右腕を外側から 内側に大きく抱え込むように振るという、旭化成の谷口選手がびっこを引いたような フォームだ。きっと、自分もそんなくたびれたフォームなのだと思った。歯を食いし ばるように頑張っているんだけど、なんだかおかしいなぁ。
35km地点を過ぎ、いよいよ残りの距離をカウントダウンできるところまできた。お調 子がいいもので、このへんで「石田軍団のオヤジを突き放して、余力を全力を出し 切ってやる!」と思い、少しペースを上げた。このレースで、ナントカして11:30を 切り、「未来の夢、ワイハー」に少しでも近づいておきたい、というのもホンネであ る。36kmのASを過ぎ、あと5km強だ。石田軍団の赤いオトーサンは、20mほど後ろを 走っている。気を抜くと、あっという間に追いつかれてしまう距離だ。

ここから最後のアップダウンが始まる。この先40km地点までの3-4kmが、このレース で最も苦しい場面であり、持てる力を全て出し切れるかどうかのカギを握る、自分と の真剣勝負だ。汗で片目しか開けられない目で、右手に広がる海と、そこに浮かぶや やオレンジ色に変わりつつある島々を見るとはなく見ながら、道は緩く左に旋回しつ つ10mほど登る。そこから長い下り。その後、それよりも少し低い登りがあってまた 少し下る。37.5km地点のASを過ぎ、民家が増えて右手に竹林に囲まれた神社がみえる と、最後の登りだ。ここまで来ると沿道の応援も増えてくる。ここで後ろを振り返る と、そこには、もう石田軍団のオトーサンの姿は見えなかった。一緒にゴールまでい けたら・・・なんて言ってたけど、どす鯉は全力を出し尽くすために、お先に行かせ ていただきますぜ!

2時間前に武家屋敷通り方向に左折した交差点を直進する。ゴールの福江城跡五島高 校を目前の交差点を右折して、ぐるりと反時計回りに城跡をなぞるように走る。目の 前の城跡からは、ウィットさんが、ロックのリズムにあわせてフィニッシャーを称え ている声がガンガン響いてくる。気温はまだ低くないはずだが、エンドルフィンやア ドレナリンがどばどばと分泌されて体中を駆け巡り、全身が粟立つ。ゴールはもうそ こだ。

交差点では、交通整理の警察官に1日の御礼をいい、沿道の応援には人差し指と中指 を額に当てて最敬礼し、広い公道の左車線の中央を走る。そういえば、ここは若い女 性やお母さん、子供たちの応援が多いような気がするなぁ。タッチを求める子供たち には、わざと頭をくしゃくしゃにしてなでてやる。「スリー、ツー、ワン、ゼロワ ン!ハッスルハッスル!」と応援してくれる小学生たち。おお、オメーらプロレス・ ファンか? どす鯉も、お前たちの歳頃にはアントニオ猪木vsストロング小林のセメ ントマッチを見てコーフンしたもんだ、なんて思っていると、自然と胸を張ってス ピードが上がってくる。こいつらの前じゃ、少しはカッコよく走らんとな。

福江港を右手に左折すると、向こう正面に例の「IRONMAN JAPAN GOTO-NAGASAKI  ゴールまであと400M」と書かれたネオン看板が見える。カンパーナ・ホテルの前で最 後の力を振り絞って走る(歩いてる?)若い選手に、「最後は(ゼェ、ハァ、)全力 を出し切って(ゼェ、)ゴールしましょう!(ゼェ、ハァ、)」と言って、ポンとお 尻をたたいて抜いた。さらにスピードを上げ、もう1人抜いた(セコイなぁ)。ネ オンの看板のある三叉路を左に折れ、どんどんスピードを上げた(つもり)。更に1 人抜く。

ここを走り抜けると、その先にはいよいよ五島高校の正門だ。2日前に受付をした文 化会館の入り口を過ぎ、お堀の脇道を50mほど行く。そこには燎(かがりび)が両脇 に立つ石橋が堀にかかり、橋を渡って大きな門をくぐると城跡に入る。城門で丁度エ ネルギーが切れるように計算して走ってきたので、もう身も心も白骨化状態だ。白骨 化状態で城壁の暗い脇道をヨロヨロと 抜け、左側にある校門をくぐると、その先には眩しくライトアップされたゴール・ ゲートが見える。仮設スタンドには応援者がお祭り騒ぎだ。
と、周りを見ると、いたいた、我等がMIGHTYの手作りフラッグをフェンスに掛けて 笑ってこちらを見ている安田怪鳥夫妻。あれ?怪鳥、レースはどうしたの?エエっ?  そのとき、会場に流れるバックグラウンド・ミュージックにDoobie Brothersの Long Train Runnin’が流れてきた!ローラー台練習や早朝ランニングの時に何度 も聞くと、思わずオーバーペースになってしまうノリノリ昇天間違いなしのこのリズ ム! そしてロック魂で焼ききれそうなハモニカのサビ! 凄いグッドタイミング! ウィットさんもノリノリ! オレンジ地に黒文字のフラッグを背中に回して、天を仰 ぎながら両手を高く掲げた。「イエ〜イ、マイティ!TEAM MIGHTY、ゴー トー・ナガサーキーで見事アイアンマン完走!MIGHTY フィニッシュ」 ウィットさんは、何度も何度もマイクの音声が割れるくらいにMIGHTYの名前を 大声で叫んでくれた。 仮設スタンド前列の応援者とFLAGを持ったままハイタッチ、反対側に行ってまた ハイタッチ!福江島の皆さん、ありがとう。最後は、ゴールゲートで大ジャンプ! (のつもり)。

城門をくぐったところで白骨化したはずだったどす鯉でしたが、ゴール手前で見事に ヨロコビの復活ゾンビとなって2回目のアイアンマンになったのであった。11時間38 分11秒。3年前より1時間早く、昨年の佐渡より20分早かった。ワイハーへの道に行く 権利を獲得することが出来たエイジ6位のKM田さんとは、52分の差であった。ワイ ハーには少し近づけたのだろうか?

ゴール後、なぜ安田怪鳥がいまここにいるのかを聞いてみると、なんでもバイクコー スがどこの大会よりもハードであるとの事前情報から、バイクで脚を完全に消耗しき らないようにペースを計算して走ったところ、割り算だか引き算だか分からないが計 算間違いをしてしまい、バイク・ゴールで制限時間 10分過ぎに中央公園に入ったた めに予定が狂って失格になったのだそうだ。怪鳥、本業の建築設計で計算間違いしな いようにタノンマスよ!
レース前、体がヘリウムガスのように軽くて、走っている間に空に浮いてしまうか も?とうそぶいていた長田アニーは、レース中に体内で核融合が始まってヘリウムガ スからメガトンガス(?)に原子変革をおこしてしまったため、ランでつぶれたとの ことであった。彼は、3年前よりも約30分タイムを短縮して、12:30かけて見事鉄人 と化した。  (エピローグにつづく)

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